〜Mayanne&Chleine〜
少女は毎年この日には教会のミサに参列していた。
だが、何時からだったろう過疎のその村の教会には彼女の姿は見られなくなった。
教会へ行く時は、いつも私が彼女の家に寄って連れ立って教会にいった。昔ながらの
信仰深いこの村では、日曜日ごとに教会に村中の人が集まる。
仕事で村を離れている人も年末のお休みには帰って来て年を越えるミサに参列する。
でも、彼女はやって来なかった。それが不思議だった。
大きくなってから分かった。彼女のお母さんが亡くなり、遠い都会に勤めていた父親
が彼女を都会に連れていったのだ。家を守っていたおばあさんもいつのまにかいなく
なってその家はひっそりと閉じられた。小ぎれいだったその幸せそうな家はたちまち
荒れ果てていった。だがバラのつるがおとぎ話のお城のように伸び初夏には真っ赤な
花が咲いた。その時だけその家は花に包まれて昔の面影を少しだけ取り戻した。
私はその赤いバラを見ると、よく笑う幼かった親友の事を思い出すのだった。
メイアンナとクリーネ
〜いばら姫〜
by オレンジファーム
私の名はクリーネ。この麦畑と湖に囲まれた小さな村の端からバスで20分程の町役場
に通っている。この村で生まれこの村で育った。パパは私が小学校の時、山の事故で
亡くなった。母は私を連れて再婚しようと思っていたらしいが、娘を連れての再婚は
万が一の間違いも有ると言って祖父が許さなかった。だから私は祖父母に育てられた。
山のすぐ向うにあるとかいう大きな町にさえ行った事がない。この町の高校を出て、
仕事をしながら通信教育で環境保全の学位論文を書き、大学卒業資格をとって町役場
に勤めた。安心したようにその年に祖父母は相次いで天国に旅立った。当年21歳。
母は列車で1時間程の町に済んでいるのでたまに遊びに来る。14も年下の弟と妹が
いる。とても可愛い。懐いてくれて、遊びに来た時は仲良く遊ぶ。
この村。バスで30分圏内の小さな円の中が私の世界。私のテリトリー。きっとここ
で結婚をしてここで子供を産み、ここで年老いていくだろう。雑貨店のアルベルト。
小学校の頃よく虐められて泣かされたあいつが今は私の恋人。店の後を継いだらアメ
リカ風のコンビニエンスストアに店を改装して私と結婚すると言っている。私は多分
その求婚を受けるだろう。そしてこの静かな村でずっと暮らして行くに違いない。
そう思っていた。
今年は寒いのに雪が少ない。雪は嫌いだったが畠の作物は雪がないと皆だめになってし
まうので、幾らかの投資をしてポリエチレンビニールで畠を覆ってやらなければならな
い。バス停前のエルンストさんの家に置かせてもらっている自転車で家路につく。雑貨
店でビニールを注文し、頼んでおいたバターとスパゲッティーを受け取った。
いつもの道でなく昔の友人の家の前を通ったのは、ただの偶然だった。
あれ? 家に灯りがついている。
パチン、パチン。
剪定鋏の音が聞こえた。生い茂るにまかされていたバラが小さく刈り込まれていた。
「・・・どなたか・・・いらっしゃるんですか?」
「ああ? なんだ?」
つなぎを着、煙草を加えた若い女が家の横から顔を出した。一瞬昔話のいばら姫を
思い出したけど、あのお姫様は眠っていただけで、剪定なんかしなかったろうな。
「あ、いいえ。この家ずっと空家だったものだから、どうしたのかと思って。」
「今日からあたしが住む事になったんだ。ここの村の人かい。」
みごとな赤毛の頭をばりばりと掻きむしりながら、余り上品でない言葉遣いでその
人は言った。はい、と頷いて私も尋ねた。
「あの・・・どちらから越していらしたんですか?」
「ニューニューヨーク。NNYだよ。」
ニューニューヨーク! 大変動で海に沈んだニュ−ヨークを再建したアメリカの
大都会。世界経済の要のシティ。
そこは煌めくイルミネーションと数百階建ての巨大な超高層建築が立ち並び、
エリート達が忙しく動き回る未来都市・・・。暫くその幻想が私を取り巻いていた。
「・・・・ないのかい?」
はっと、何か尋ねられて正気に戻った。
「あっ、す、すみません。ちょっとぼうっとしていたものですから。聞いてませんでした。」
赤毛の人は苦笑いをした。
きっと田舎者はこれだから・・・なんて思われてしまったろうな。
NNYの人と話すなんて事はまずあり得ないと思っていたから。外国の人と合うのだって
生まれて初めて。大体べルリンにだって、数えるしか行った事がない田舎娘だもの。
「ここには食事をしたりする店はないのかいって尋ねたのさ。」
「あ、食事・・・といってもパブが一軒あるだけです。そこだけですね。」
若い女の人が一人で行くような所ではない。村の男の人達のたまり場なのだ。
酒が入ると余り上品な所とは言いがたい。
「酒・・・も悪くないな。ポテトとソーセージくらいあればいいんだ。」
村の女達が絶対脚を踏み入れない場所をこともなげにいう。男の人の前で酒を飲むなんて。
「あ、あの。もしよかったらうちで食べませんか?今から帰って食事を作る所なの。」
「そいつは助かるな。この格好のままでもいいかい?」
「ええ、どうせ私ひとりだけだもの。」
「一人暮らしかい? 若い娘の一人暮らしはいけねえなあ。」
冗談を言って笑った笑顔がなかなか素敵だった。招いた瞬間後悔していた気持ちが消えた。
その人は上手く自転車を2人乗りして家の前に停まった。
「2人乗りなんか初めてしたけど、結構お尻が痛いものなのね。」
そういってお尻を撫でていると、呆然と家を見ていた彼女が言った。
「この家・・・あんたク、クリーネ・アンナマリア・フォン・フィッツフェルデン?」
「え?・・・ええ。」
何故彼女が私のフルネームを正確に知っているの?
「あ、あたしだよ! メイアンナ・カタリーナ・マルブクロスだよぅっ。」
「あっ、赤毛のメイ!? ほんとにいぃっ?きゃああああっ!」
2人は半気狂いみたいに疳高い声を上げて、山羊みたいに抱き合って飛び跳ね続けた。
ぜいぜいと息が切れてその場にへたり込むまで。
それから、大笑いしながら家に走り込んで、とっておきのワインで何回も乾杯した。
限り無く喋る事があったので、鍋にぶち込んで茹でたスパゲッティは吹きこぼれるし、
その後茹でたソーセージは水が無くなって焦げ付いた。ミートソースはどうせまとも
に出来っこなかったので、バターを絡めるだけにしてガーリックハーブソルトを振り
かけただけで、お腹に詰め込んでまた飲んだ。酔っぱらうに連れて昔のメイアンナの
顔が近寄って来て、完全に酔っぱらった時に自分の顔も昔のお転婆時代に完全に合体
復帰して、2人の瞳はきらきらと輝いた。壁掛け時計がまっ先にワインの瓶をぶつけ
られて砕け散った。わははははぁぁ、親友の再会を仕切ろうなんて生意気なやつッ!
ああ、この村一番のお淑やかなお嬢様で通っていた私がなんてこと!
気が付くとあたしはベッドの下にシーツに絡まって身動きがとれない状態になって寝
ていた。どういうわけか、頭がくしゃくしゃになって数本のストローが髪に突き刺さ
っていた。メイアンナはと思って伸び上がると、隣の居間のソファーに、足を高々と
国旗掲揚台のように掲げて逆立ちするような格好でバスローブだけを纏ってお臍から
下を丸出しにしていびきをかいていた。見られたもんじゃ無い。何時の間にか家の中
に入って来ていた雌鳥が、羽ばたいてメイの大きな胸の間から立ち上がった。
どんどんどん!とドアが叩かれた。
「おーい!クリーネ!中にいるのかッ」
「大変!アルの声だわっ!」
ごそごそと慌ててもがき出ようとしたが、よく見るとダブルのシーツに2重にくるまれ
首の所で括られている。丁度袋詰めになって首だけ出ている状態なのだ。むぎいいいっ!
と頑張ったけれど手も足もで無いとはこの事ね。その上首を括っているのは真っ赤な大
きなリボンだ。一体誰のプレゼントにするつもり? メイったら!
「メイ!起きてッ、メイっ!」
アルは勝手口の鍵をがちゃがちゃやりはじめた。まずい、あいつはこの家の合鍵を持って
いるんだった。ああ、嫁入り前の娘が男に合鍵を渡したりするようなふしだらな真似を
したからバチがあたったんだわね。神様もうしません。あいつの鍵も回収しますからっ!
と、心の中で叫んでも、もはや神も呆れ果てて見限られたようで、
「入りますよ−。クリーネ−。」
というのどかなあいつの声が聞こえて、だんだんこっちに近付いてくるようだ。ああもう
あたしはお終いッ! 婚約破棄、無断欠勤で役所も首、身持ちの悪い娘だって事になって
もうずっとひとり暮らしが続くんだわ。わーーーっ。
居間のドアががちゃリと回った。アルはドアを開け部屋の中を覗き込み、完全なVの字に
なっているメイの完璧な黄金率を守った素晴らしい両足をみてぎくりと立ち止まった。
メイの大きな胸の間には卵があったんだって。さっきの鶏の仕業ね。よほど居心地がよか
ったんだろうって自分で笑ってたわ。むしろ雄鶏の方が産むんじゃ無いかしら。すけべな
アルが顔を覗き込んで紅い毛を確認し、胸をなで下ろしてる。次にあたしと目があった。
カ−ッと真っ赤になったかと思うと、アルベルトは堪え切れなくなってブブーッと噴き出
した。そりゃあそうよねこの格好じゃあ。まるでたまねぎだわっ。
「な、何をしてるのさ、クリーネ。」
「うるさいわねえ、好きでしていると思うの?気になるんだったら、早くこのリボンを
解いて頂戴よっ!!」
「何時ものクリーネと違ううう〜〜。」
アルは駆け寄るとあたしを袋ごと抱え上げてキッチンテーブルに置いた。そしてリボン
を解く。バサっとシーツが広がって、中身が曝け出された・・・あっ、あたし裸っ?
大きなカードが、あたしの胸とお腹とに張り付けられている。
『愛しいアル。生まれたままのあたしを上げる。』ですってえっ!
「くッ、クリーネエッ!」
「ばかアッ!とち狂うんじゃ無いッ!」
あたしが思い切り振り回した足がアルの顎に見事に決まった。
アルは、悲鳴を上げてソファに突っ込んだ。そう、メイアンナの真上に。ソファが
ひっくり返って2人は絡まって立ち上がる。アルの顔面は卵だらけでぬとぬと。
「あんた誰。ん〜〜?何処かで見た顏だわねえ。」
「はっ、ぼ、僕は初対面ですがー。」
何ぁにが「僕」よっ! ああ、私とした事が何てはしたない。
「思い出した!雑貨屋のアルベルトだなっ。」
「は、ハイ、その通りですが。ですが・・・・?」
最後まで言い終わらないうちにアルは弾き飛ばされて生ゴミバケツに突っ込み、鼻
から血を噴き出した。紅茶の缶が開いて卵だらけの頭から被った所に潰れたコーラ
ボトルが、彼のお尻の下で爆発した。
「いひゃあああっ!」
飛び上がった所に右と左から2人のカウンターパンチが両方のこめかみに炸裂した。
うん!この呼吸!これで昔は苛めっ子のアルベルトを2人で殲滅したものよねっ!
2人は素っポンポンのまま、アルの大きな背中の上に立ち上がって、
「ウイィィィィィ−−−ッ!」
高々と親指を突き出してガッツポーズを決めた。まだ酔ってる?そんなことないわっ。
その直後大騒ぎに気づいてアルと一緒に来ていた役所の上司と同僚が駆け込んで来た。
私とメイアンナは床に丸まって、悲鳴をあげることになってしまったのよね。嗚呼!
To be continued
次回予告
メイアンナとクリーネ。
さぁて、13年ぶりに本調子よっ。世界の中心ニューニューヨークからドイツの片田舎の
町役場に華麗な転身を果たした、メイアンナ・カタリーナ・マルブクロス。招聘した村長
は、一体何を目論むのか?
13年ぶりにタッグを組んだクリーネ・アンナマリア・フォン・フィッツフェルデンとの
コンビに村中の若者は震え上がる。
さて。
2002-09-30 メイアンナとクリーネ -いばら姫-
| 広告 | [PR] 花 訳あり お取り寄せ 就職支援 | 無料レンタルサーバー ブログ blog | |